カラチ暴動とインドの台頭
日本のマスコミではほとんど報道されないが、パキスタン第1の都市カラチでは
散発的に暴動が続いている。暴動をあおっているのはモハジール民族運動(MQM)
と言われている。モハジールとは聞き慣れない民族名であるが、イギリスの植民
地支配から脱却する時にヒンズー教徒主体のインドに反発してイスラム教徒たち
がパキスタンという国を作ったことに由来する。このときに、現在のインドの地
からパキスタンに移住したイスラム教徒の子孫のことをモハジールと呼ぶ。その
後、東西にわかれていたパキスタンは東パキスタンがバングラディシュとして独
立し、今日にいたっている。
モハジールは現在、2200万人いると推定されているが、移住者の常として、
先住者たちとの間でトラブルが絶えないようである。しかし、2200万人全員
が現ブット政権に反発して暴動を起こしているのではない。もし、そうならば、
今頃はとっくにブット政権は崩壊しているであろう。しかし、カラチではすでに
1000人近い死者がでているのも事実である。
MQMの最高指導者であるアルタフ・フセイン氏は身の危険を感じてすでに逃亡し、
ロンドンに潜伏中と伝えられる。これに対してブット政権は硬軟両様の対応をし
て事態の沈静化に努めている模様である。すでに両者の間で和解のための話し合
いがもたれているという情報もあるが、これによって暴動が完全に収束するかど
うかは予断を許さない。
そもそもインドとその周辺では近年、暴動騒ぎが頻発している。インド国内での
ヒンズー教徒と他の宗教の信者の対立に端を発した暴動や焼き討ち騒ぎ、インド
パキスタン国境地域での緊張、スリランカにおけるタミール・イーラム解放の虎
と政府軍の戦闘など、きな臭い話ばかりである。スリランカの場合はモハジール
とは異なり、もともと2つの民族が同じ島に平和に暮らしていたのであるが、一
部のタミール人たちが過激化して政府軍と戦っている。そして、彼らの後ろには
インド政府がいることは誰の目にも明らかであろう。
このような情勢のためか、インド、パキスタン、スリランカの各国は近年、急速
に兵器の近代化と軍備拡張を進めている。そして、今やインド亜大陸とその周辺
の国々は軍需産業にとっては大のお得意様になっている。このような軍備拡張の
動きが他国にとっては脅威と感じられるために、ますますの軍備拡張と緊張の激
化という悪循環を招いている。
では、このような状況で得をするのは誰であろうか。もちろん、欧米を中心とす
る軍需産業グループである。流れるのはアジア人の血であり、ヨーロッパやアメ
リカから遠く離れているために、難民が流れ込んでくる危険もない。そして、欧
米で旧式化しつつある兵器を「最新兵器」として高く売り込めるのだから、こん
なうまい話はない。
先月号で述べた旧ユーゴをはじめ、彼らのやり口を見ていると一定のパターンが
あるように思える。それは、異なる民族や異なる宗教を信じる人たちが混在して
住む地域において、いろいろな形で小さな緊張状態を作り出す。それを少し大き
な暴動などに拡大する。それに対して、中央政府なり地方政府に過剰な反応を起
こさせて暴動を起こした人たちの中に死人やけが人を出させる。それに反発して
さらに大きな騒動へと発展していく。その情報が、マスコミに乗って世界に発信
されると、当該地域以外に住む人たちを含めて、関係する民族や宗教の人たちの
感情を硬化させる。そして、最後には国と国との争い、最悪の場合には戦争を引
き起こすことができるのである。
「判官びいき」ということわざがある。これは争いの当事者のうちで弱い方を心
情的に応援するという現象である。すなわち、パキスタンではMQMを、スリランカ
ではタミールの虎を応援したくなる。しかし、ほんとうにその地域の人たちは争
いを望んでいるのであろうか。過激組織の力が弱いとすぐに政府によって弾圧さ
れてしまう。軍需産業一派とすれば、それでは困るわけで、そのような組織に対
して物心両面の支援を陰から行うわけである。それは、普通のマスコミには「*
**のリーダーのXXXXが某国へ亡命した」とか、「抑圧されている***民族を救う
ために+++政府へ嘆願書を送ろう」というような形で現れてくるのである。
インターネットは技術である。そして、すべての技術には効能とともに副作用が
伴う。インターネットの効能について改めて述べる必要はないと思うが、副作用
については、ホワイトカラーの失業が増える、くらいにしか認識していない人が
多い。しかし、多量の情報を瞬時に送れるということは、誤った情報、あるいは
限定された情報を送ることによって、国際世論を思うがままに操作できる可能性
もあるということを意味している。軍需産業一派が世論操作をするときには、必
ずしも軍国者と名乗るわけではない。単なる商売人を装うこともあろうし、場合
によっては平和運動家として活動することさえある。そして、もうひと言だけつ
け加えれば、インドは英語圏であるという特徴を生かして、今やアメリカに次ぐ
ソフトウェア生産国となっているのである。