おわりに

この文書を書き始めたのは1993年の5月頃だったと記憶しております。そ の当時からオーム真理教やそれに類するカルト宗教の危険性を指摘していた人 は多かったのですが、結局、松本サリン事件や地下鉄サリン事件が起こってし まいました。私のようなものが何か少し書いたところで、彼らの暴挙を食い止 めることはできなかったでしょうが、もう少し早く書き上げていれば、ひょっ として1人でも2人でも救うことができたのではないかという悔いが残ります。

しかしながら、今日の朝日新聞の朝刊の1面下段の出版広告の中にも依然とし てカルト宗教色の濃いものを見るとき、やはりこの文書を発表する必要性を感 じざるを得ません。彼らは、オーム真理教のような目に見える悪事やスキャン ダルについては過剰な報道をするのですが、彼ら自身が超能力ブームやオカル トブームを煽ってきた責任についてはどのように考えているのでしょうか。

この文書の中では、超能力指向の新興宗教の危険性について、いくつかの側面 から述べてきました。大きな時代の節目である現代においては、まだまだカル ト宗教がはびこる余地が残されています。このような教団や自称「超能力者」 たちに力を貸すことは、国を滅ぼす元です。第2次世界大戦前の大日本帝国で は、終末思想を唱え、超能力を売り物にした大本教が大きな力を持っていまし た。

彼らは226事件を陰であやつり、大東亜共栄圏的な構想を実現しようと していました。もちろん、当局は大本教を徹底的に弾圧したのですが、彼らの 思想は巷に普及し、「日本は神国」、「欧米の魔の手からアジアの同胞を救お う」などという声となって政府を動かし、結局、泥沼の日中戦争から悲惨な太 平洋戦争への道をたどったのでした。

しかし、オーム真理教のようなカルト宗教がはびこる真の理由は、金もうけ至 上主義の連中からの陰の支援を受けているからに他なりません。彼らは世の中 の不安を煽り、世の中を混乱させて、そのどさくさにまぎれて金もうけをしよ うとしているのです。

強制捜査によりオーム真理教は10億円以上の多額の現 金と金塊を所持していることが明らかになりました。その他にも、彼らは広大 な面積の土地と建物を所有し、さらにはクルーザーやヘリコプターまで持って いました。これらは女、子どもを含めても出家信者1000人足らずの教団に は不釣り合いのものです。

確かに、彼らは金持ちをねらって勧誘して入信させ、半ば強制的にお布施とし て財産を巻き上げていたようです。しかし、100人から1人1000万円ず つ集めてやっと10億円にしかならないのです。銃や覚醒剤を密造していたこ とや教団幹部を暴力団関係者が暗殺したことから見ても、彼らの背後にさらに 大きな組織があるのではないかと疑っているのは私だけではないでしょう。

私はすべての宗教を否定するものではありません。また、超能力や神通力のす べてを危険であると決めつけているのでもありません。ただ、世間の人の常識 とは反対に、宗教や神通力といった世界には大きな危険性が潜んでいるという ことを述べてきました。それは、ひとつは自分自身の健康に対する危険であり、 また、自分の周囲の環境に対する危険であります。そして、社会的に見ても、 宗教や神通力のまわりには悪党どもが寄りつきやすいのです。

私はすべての新興宗教家の皆さんとその信者の方々に警告を発する目的でこの 文書を書きました。既存の宗教が1点の曇りもなくすばらしいものであるとい うのではありません。歴史の短い新興宗教ほど落とし穴に落ちやすいことに気 づいていただきたいのです。オーム真理教のような事件が続けば、宗教界全体 に対する規制が強化されるでしょう。そうなれば、この科学技術万能の世の中 で、いったい何を信じて生きていけばいいのでしょうか。

今、世界は大きく変わっています。それは、1000年に1度の大きな変革で す。まだ、それは始まったばかりでしかありません。日々の事件のなかで本質 を見失ってはいませんか。皆さんの教団の存在意義を忘れてはいませんか。そ して、あなたがたの教団はキリスト教や仏教のように2000年後にも存在で きますか?


事典エイト - 新興宗教への警告