カエムワセト

最近、早稲田大学の吉村隊がエジプトでカエムワセトの葬祭殿の遺跡を発見しました。 これは日本のエジプト研究史上の最大の発見であるとともに、 地元エジプトにとっても大変な発見であったのです。

カエムワセトはラムセス2世の第?王子です。 ラムセス2世といえばエジプトの新王国時代の最大のファラオと言われ、 シリアやスーダンに遠征し、アムシンベル神殿を造営するなど彼の時代はエジプト新王国時代の最盛期でした。 そのファラオの父のもとで実質上の首相として取り仕切っていたのがカエムワセトでした。 今でもエジプトの人々は彼の名前を道路や店の名前にして親しんでいるのです。

さて、この時代のもうひとりの主役は旧約聖書にでてくるモーセさんです。 彼のことはエジプトの公文書にはでてきませんが、 旧約聖書の内容から考えるとまさにこの時代にエジプトを出てパレスチナの地を目指したものと思われます。 旧約聖書の記述がすべて正しいと断定するだけの証拠はありませんが、 この時期にエジプトではカエムワセトの指揮によってラムセス市への遷都が行なわれていました。 新首都の建設に多数のエジプト人以外の人たちが動員されていたことは想像にかたくありません。 そして、無理な土木工事が重なって民衆の不満が爆発し、 モーセに率いられたパレスチナ方面を先祖の地とする人々がエジプトから脱出していったのでしょう。

旧約聖書にはモーセ達がエジプトを出ていくにあたって数々の災いが神からエジプトに下されたことがのっております。 これはファラオ達が奴隷同然に使用していたユダヤ人の技術者たちが逃げていくのを阻止しようとしたために引き起こされた出来事です。 最近の研究者の中にはこれらの災いはモーセたち技術者が仕組んだことだと主張する人たちもいます。 あるいはモーセが超能力によってこれらの奇跡を起こしたのだという説も昔からあります。

これらの説が真実かどうかは疑問の余地もありますが、 旧約聖書やエジプト考古学が主張しているところは、 エジプト新王国の絶頂期にカエムワセトという超人的な人物がでて数々の技術革新と土木工事を行ない、 一方でモーセというやはりある意味で超人的な人物がでてカエムワセトと対立し、 その対立のなかで天変地異や疫病、そして争いが起こり、カエムワセトは若死にし、 モーセに率いられた人々は砂漠の中の苦難の道を選んだということです。

このように歴史をふり返って見るとき、 いろいろな意味でのストレスが高い時空点が存在することがわかります。 そして、その時代、その地域において、必ず2、3人の宗教家や予言者、 魔術師をたやすく見つけることができるのです。


事典エイト - 新興宗教への警告 - 第2章 魔術が栄えると国が滅びる